シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

・異変2 櫂Side

 櫂Side
***************


浴室から続く、久遠の部屋。

仕切りドアは至って普通。

廊下に面したドアだけを、わざわざ赤くしたのは芹霞の為だろう。


いつでも何処でも、例え迷っても…

自分の処に来てくれるように。


遊園地のアトラクションといい、そこまで芹霞の興味を向けたいのなら、自ら動けばいいものを…突き放すような傍観スタイルを貫き通しているのは、彼の育った特殊な環境が関係しているからなのだろう。


俺には芹霞の想いを隠そうともしないでぶつけるくせに、本人目の前には何もしない。


――煩いな、せり。

――馬鹿じゃないのか、せり。


不可抗力だったからと割り切って、過去を切り捨て新たな生き方も出来るのに…あえてそれを引きずって心の枷にしているのは、彼の厳粛なまでの崇高な精神性故に。


身体は自堕落でも、心は何処までも禁欲主義(ストイック)で、その強い自制心は俺でさえ目を瞠るものがある。


想いに…言霊という可動的な力を込めない久遠。


しかし…何度も何度もしつこい程に、芹霞の名前を呼ぶ。


久遠だけに許された"せり"の名を、蔑む言葉同様に会話に多用しているのは…久遠の隠せない心故。


そこまで奴も芹霞を求めている。


芹霞の名前にこめられた、秘めたる久遠の想い。

かつて"刹那"と呼ばれていた頃からの、彼の想い。


芹霞は判っていない。


芹霞にもしも初恋の情が蘇れば…

芹霞と久遠は両想いだということに。


初恋は成就する。

お互いに。


敗れるのは――


――芹霞ちゃあああん!!


きっと俺の方だ。



だから一層忌々しく。

だからどうしても対抗心が強まってしまう。

< 1,245 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop