シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
迷ってばかりの芹霞を惹き付ける赤いドアは、鍵がかけられていない。
俺達の邪魔により、未だ芹霞は久遠の部屋に1人で訪れたことはないけれど、もしも芹霞が1人でドアを開けてしまったら。
それは久遠の心の…開かずの扉が開くが如く、押し込めていたものが溢れ出て来るだろう。
今の俺のように、狂い出しそうな程に切羽詰まって、息も絶え絶えに…"男"を見せて手に入れたいと思うのだろうか。
あの無表情の顔に…愛は溢れるのだろうか。
あの罵詈雑言を述べる口は…永遠の愛の誓いを紡ぎ出すのだろうか。
そんなことを思いながら、俺は浴室から久遠の部屋に入ったんだ。
俺が男に戻るには、最低限男の服が必要で。
だから久遠の服を拝借することにしたんだ。
開いたクローゼットには、見事に…白いシャツとズボンしかない。
しかも…俺と同じくらいの身長で、
若干俺よりズボン丈が長いって何だよ。
俺は――
男に戻る。
そして手首の布に、願いを込める。
――紫堂櫂を愛してる!!!
どうかあの時の情熱を、もう一度俺に。
「………」
手の痣が、色濃くなっている気がする。
それにこの形状――
どう見ても、血色の薔薇の痣(ブラッディローズ)にしか見えない。
何でこんなものが、久遠に踏み付けられた俺の手に出来るというのか。
ああ、此の地で、何で此処まで事態が掴めない?
何で此処まで俺は足止めを食らってる?
予定ではもっと情報を早く入手して、体力が回復出来たら、さっさと遠坂と東京に帰り、皆と合流するつもりだった。
だけどまず、謎ばかりが増えて行き、解決出来るはずの資料があるだろうにもかかわらず、欲しい資料が手に入らない。
外部とコンタクトは取れず、電気系統自体ががおかしくなり。
突然久涅が乗り込んできて。
おまけになれば、蛆だ蚕だ蝶だZodiacだと…まるで呪われているかのように身動きがとれず。
だから――。
芹霞が来てくれたのが、
嬉しくて堪らなかった。
――芹霞ちゃあああん!!!
俺を探し出し、いつものように迎えに来てくれたのだと…心が熱くなったというのに。
芹霞の記憶に、俺が居ないなんて。
玲の存在が大きくなっているなんて。
手首の布にキスを送る。
どうかまだ――
間に合いますように。
どうか――
俺を思い出してくれますように…。