シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 

人形は、風化するように消えて行く。


そして俺の手の中には…

残るものは何も無かった。


芹霞の形をしたものも、

人形の形をしたものも…


何もなかった。


虚無。


虚しい…闇ばかり。



どうして俺は――

芹霞が偽者だと判らなかったのだろう。



――紫堂櫂を愛してる!!!


あの言葉に囚われ、俺は真偽を判断する目を失っているというのか。


芹霞の記憶の回復を望むあまり、芹霞からの想いを切望するあまり…真実を見抜けなくなってしまっているというのか。


俺が。

この俺が。


自らの願いに引き摺られて、

芹霞の偽者に心奪われてしまうなど。


後悔と屈辱と、羞恥。



「助かっ…た。す…まな…」


礼を述べようと顔を上げた時には、もう榊の姿はなかった。


玲が偽の遠坂を燃やした時、榊は本物の遠坂を殺されたとして、玲を本気に殺そうと襲ってきた。


俺が間に入っていなければ多分、玲は確実に目をやられていただろう。

"生きている"


あの時の俺は、玲がそんな暴挙に出るはずはないから、目で見えているものは違うと、俺は腕に怪我を負うのと引き替えに、手で榊を制した。


下手すれば、本物の遠坂の前で…遠坂が敬愛する玲を殺していたかもしれない、そんな状況は免れたから。


その"借り"を返したのだろう。


一時の感情に目を曇らせた、あの時の榊の如く…同様に陥った俺を助けたのだろう。


未だ榊の目的は判らず、何であんな姿になっているのかも判らないけれど、榊が来なければ、俺はやられていたかもしれない。


愛する芹霞に。
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