シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
偽者が本人のように振る舞う…その手段の1つに人形があるらしい。
もしかするとあの人形が…玲が体験したように、蚕を生み出すものとなり得るのかも知れない。
即ち――
蚕や蛆を運ぶ、使い魔…式神のような類なのかもしれない。
あの人形…。
何で、片目が青かったのか。
オッドアイ…。
ちり、と俺の記憶の何かが刺激される。
昔昔の記憶が。
ああそうだ。
あの人形は…
――イチルちゃん、あたしが作ったの!!!
芹霞が、イチルに渡した手作りの人形ではなかったか?
精緻とは言えない…出来だけれど。
芹霞が俺ではなく、違う奴を思って手作りを贈ったというのが、酷く羨ましく…酷く嫉妬して。
――うわああああん!!!
…泣いた気がする。
思い切り大泣きした気がする。
そして、その時感じたはずだった。
イチルの勝ち誇ったような視線を。
嬉しいという親愛の情を芹霞には返しながら、俺に向けていたのは…
芹霞を俺から奪ってやるといった敵意。
ああ!!!
屋敷で感じた視線は。
あの頃俺が感じたイチルの視線そのものだったじゃないか!!
だとしたら。
あのイチルが此の地に居るのか?
あのイチルが、あの人形を使って何かをしでかそうとしているのか!!?
アノトキミタイニ?
今――
俺は何を考えた?
はっきりしないイチルとの記憶。
出会いは思い出せるのに、仲良くなった後がどうも曖昧だ。
イチルは…第一印象のような大人しい女じゃなかった。
それだけは言える。
どうして俺は、詳細に思い出せないのだろう。
コワインダ。
まるで、思い出すことを拒否しているかのようだ。
「!!!?」
そんな時だったんだ。
瘴気の膨れあがるのを感じたのは。
そして同時に感じるのは――
「芹霞!!!?」
間違いない、これは芹霞の気配。
本物の気配。
何で外に出てる!!?
何で瘴気のまっただ中に居る!!?
心臓が不穏な音を立てている。
俺は走った。