シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「この機械は莫大なデータを扱うから、障害に対する緊急復旧対策の1つとして、別の場所にデータ複製するという"ミラーリング"方法の1つ、ネットで遠隔地の補助記憶装置に複製を行う…レプリケーション方式を模倣している。
…機械の異常時、ネット介して別のPC…僕の作ったメインコンピュータに、障害部分のデータを自動複製したものを送ってくる仕掛けになっている。メインコンピューターでそのデータをチェックしたり、或いは家からでも問題のデータ復旧も出来るようにね。
ネットを切断された状態で明らかな外部からの攻撃を受けた時、または電気系統異常でデータ障害がおきた時、その対策として、そのデータのコピーを、"魔の巣窟"という、仮想領域に自動的に移動をさせる。
そこは…ある"鍵"…パスワードがなければ、データを読める形には復旧できない。取り出しても…人間で言えば、遺伝子レベルで書き換えられ、"暗号化"されている。それを解くには、億単位のパターン解析が必要だ。
蓮が受信したメールの添付である氷皇データも、障害として僕のメインコンピュータに送ろうとして、ネットが繋がらない為に門前払いを食らったスキャナデータも、オリジナルは消え、コピーは魔の巣窟にだけ残る状況だ」
「だったら、その鍵…パスワードを見つければいいじゃないか」
三沢さんが言った。
「それは…この機械の異常を検出した僕のメインコンピュータが発行するようになっている。今、僕のコンピュータはシステムダウンしている上、もし仮に動いていてパスワードを発行していたとしても…ネットが閉ざされているのなら、"約束の地(カナン)"でそれを受け取ることは出来ない」
「判る方法は、他にないのか?」
久遠の声に…僕は声を静めた。
「もしパスワードが発行されて、少しでも僕のメインコンピュータが正常に動いているのなら。外部接触の心配がない…独立したネット環境があれば、引き出せる。
だけどもしパスワードが発行されていない状況であるのなら、魔の巣窟のデータの解析プログラムを作るしかない。解析に時間がかかる。
どちらにしても、今のこの環境だけでは用は足りない」
「独立した…ネット環境や電気系統…」
由香ちゃんが困った顔をして笑った。
「桜華の…理事長室でも行く?」
「何だそれは」
久遠の問いに由香ちゃんは答えた。
「五皇は自らの領域を築くことが出来る。桜華の理事長してる氷皇は、理事長室を東京の電気系統とは別個に…独立させていたんだよ」
「氷皇が…」
そして、すっと瑠璃色の瞳を細めた。