シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「元々はルーン文字で書かれていたものを由香が機械でラテン語に翻訳した。ルーン文字がいいなら、原書は沢山あるぞ。遠慮しないで、死なない程度に、死に物狂いで読め」
何で"死に物狂い"?
そう言った相手は、完全高みの見物に徹したらしい。
「僕、ルーン文字なんて読めないよ!!! って、何でレグはルーン文字なんか…ギリシャ人だろ? 僕、ギリシャ語くらいなら読めるけど」
「それくらいならオレだって読める。読むのが面倒なだけだ」
威張り腐って言われた。
読めても読めなくても、結果は1つ。
読むという行為をするのが億劫らしい。
「由香。ギリシャ語って…"くらい"のレベルなのか?」
「ボクは日本人なので、ワカリマセン…」
「早く読めよ、紫堂玲。お前、若いんだから、脳細胞を使えるうちに使わないと無駄に老化するぞ? 成人しているならそれくらい判るだろ」
じゃあ使おうとしない久遠の脳細胞は既に老化して風化でもしているのか…聞こうと思ったけれど、時間の無駄な気がして黙った。
「期待してるぞ、若者」
何処の爺さんだよ…。
というか、一応…久遠は僕より1つ、年下のはずだけど。
彼の"自称"によれば。
きっと突っ込めば…年齢のことを持ち出すなって怒るのだろう。
何処までも矛盾を抱えた、扱い難い男だ。
「ふむふむ。やはり紫堂玲は文句を言わないな、何処ぞの男とは違って。ならば仕事が速いな」
「別に当然の反応を示しただけで、誰かさんよりはよっぽど仕事してたと思うけど。可哀想に師匠…。やっぱり切なさ担当だね…。涙出てくる」
そんな女2人の呟きは僕の耳には届かなくて。
「レグはドルイドの流れも汲んでいるらしい。生い立ちくらい、日記に書いてあるかもしれないけれど。運がよければその紙のラテン語で読める。興味あるなら、片っ端から読めば?」
久遠は、読む気はまったくなさそうだ。
「むしろ、全部読め」
僕を、ただ急かしてくるだけ。