シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

「シャワー? あいつ…男に戻る気か!!?」


久遠が少し声を荒げた。


「久涅が感付いているからって、開き直ったのか…!!? 何でそう…子供みたいに、直情に行動するんだよ!!」


「もうさ…限界だよ、凛も。久遠も感じていたろ? かなり我慢していた方だと思うよ、追い詰めた相手が目の前にいて、尚且つ不本意な女装させられてさ」


由香ちゃんの言葉に、久遠は押し黙った。


「元はと言えばボクの不用意な言葉でバレてしまって、こんなこと言える義理でもないんだけれど。久涅が、凜の正体を判っているならさ、腹括ろう、久遠。最早隠す意味がない。

逆に素性を知っている久涅が、それを理由に何もしようとしてこない方が不気味だよ。疑った時点で、凜をひん剥けば"約束の地(カナン)"の攻撃の材料なんてすぐ出来上がるのに。

知っていながら"約束の地(カナン)"に何か仕掛けているのなら、最早…隠したって隠さなかったって、結果は同じだろ?

守るべきものは、凜の姿じゃない。紫堂と…"約束の地(カナン)"だ。

師匠もそう思うだろ?」


正論だ。

正論だと思う。


だけど…


「師匠…?」


僕が危惧しているのは別のことなんだ。

こんな時、考えてしまうのは別のこと。


男の…本来の紫堂櫂の姿で芹霞に接しているとすれば。


芹霞の記憶が戻ってしまうのではないか。

もしかして今、戻っているのではないか。


もう…僕には残された時間が少ないことを感じて、とにかく焦ったんだ。


今は僕の時間で。

僕だけの魔法の時間なのに。


櫂に渡したくない!!!


僕が立ち上がって下に行こうとすると、蓮がそれを制して立ち上がる。


「私が行く。お前は無駄な体力を使うな」

「そんなこと言ってられない。僕が…僕が!!」


「紫堂玲。お前の代わりに迎えに行く人間はあれど、久遠様のお役に立てる頭を持つのはお前しか居ないんだ。代わりは居ない。

此処は久遠様の土地。もしも少しでも"約束の地(カナン)"を憂う心があるのなら、少しでも多く…情報を集めてくれ。対策をたててくれ」


金の瞳は切実で。

僕の私情に振り回されている時間はないのだと、訴えられて。


僕は…僕という人間の底の浅さを思い知らされる。


状況判断出来ない僕。

数分も待てない僕。


何が…紫堂の次期当主なんだろう。

笑っちゃうね…。


僕は項垂れるようにして、椅子に座った。

座らざるをえなかった。

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