シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「直ぐに戻る。どうせ…司狼の様子でも見ているのだろう。…さっき、芹霞の鞄から、鏡は引き抜いておいたし、偽者が現われても看破してみせるから」
そう笑いながら、蓮は部屋から出て行く。
部屋は…静まり返っていた。
僕は、黙って…ラテン語の紙を捲っていった。
馬鹿みたいに、ただ黙々と捲り続ける。
心がない動作は一目瞭然だろう。
今頃、櫂と芹霞は会って何を話しているんだろう。
櫂の声は徐々に戻る。
櫂が発する言葉は…想像するには容易く。
櫂は本気で芹霞に迫るだろう。
前とは違う状況に、櫂だって焦っているだろうから。
――紫堂櫂を愛してる!!!
夢にしたい僕。
現実にしたい櫂。
真実を前に…僕は忘れられてしまうのか。
今の…芹霞の恋人は僕なのに、真実の愛には敵わないのか。
僕は拒まれてばかりなのに、櫂なら拒まないんだろうか。
――紫堂櫂を愛してる!!!
また、落ち着いた鼓動が乱れ飛ぶ。
駄目だ。
考えるな。
落ち着かせろ。
深呼吸をして周りを窺う。
由香ちゃんは八の字眉で僕を見ていて、三沢さんは頭をがしがし掻きながら、プログラム状況を見ているのか機械を弄りだして。
久遠は何かを考えているようで、天井を振り仰いでいる。
芹霞のことだろうか。
やはり、櫂とのことを気にしているんだろうか。
久遠にも判っているだろう。
櫂が"男"に戻る決心をするほど、切羽詰まっているのは…恋心の方だと。
久遠が芹霞を深く想うのなら、その心は痛いほど判る筈で。
そしてきっと…僕の心も判っている筈で。
櫂と芹霞が両想いになったこと、
久遠は知っているのだろうか。
ああ、選ばれなかった男達は、
何て切ないんだろう。
だけど…僕は、まだ諦めたくないんだ。
選ばれたいんだ。