シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「この文のニュアンスでは、オレも顔合わせしているようだ。過去、嫌々ながら名前を名乗り合って顔合わせした、紫堂の"少年"は…久涅だけだ」
「えええ!!? "外貌は憐れみを"…ってあるよ!!? 久涅は紫堂そっくりなイケメンで、憐れみ要素はないじゃないか!!! 逆に上から目線で"憐れんで"やる高飛車タイプだぞ!!?」
仰け反って由香ちゃんが叫べば、
「今はな。昔はまるで違う…別人だ。あんな威圧的ではなく、もっと逆におどおどとして、顔も平凡…以下。お前なら判るだろう、紫堂玲」
僕は――
「実は僕…同じ本家に居ても、直接会ったことはなかったんだ。今思えば、久涅ら直系を次期に推す派と、その従弟である僕を推す派とが分かれ、そして僕は、久涅の素行が悪すぎるからという理由で遠ざけられていた気がする。
僕が次期当主になった時は、早々に久涅は家から居なくなって、消息不明になっていたし、顔を知らなくても特に不都合もなかったから、気にもしていなかったけれど。所詮数多いる従兄の1人だしね。
櫂だって、8年前までは顔は知らなかった。血が繋がっているから、同じ家に住んでいるからって、一般家庭のような親密さがあるわけじゃないんだ。紫堂は。
話戻すけど…久涅と久遠が会ったというのはいつ?」
「"約束の地(カナン)"になる前だ。各務がまだ山の中にあった頃」
つまりは、13年以上前。
「久涅はまだ次期当主ではないな。久涅が次期当主になったのは、約10年前。僕が10歳の時のはずだ。その頃はもう、久涅は悪評だった。
久涅の豹変はいつなんだろう?」
劇的な変貌という点では、櫂も見事に遂げているし、その実兄も同様なことが出来ても不思議ではないけれど。
兄弟の姿態は酷似、しかし性格はまるで違う。
櫂は芹霞を手に入れる為に代わった。
だとすれば、久涅の変貌の契機は何だ?
「師匠が次期当主してたのは、何歳の頃?」
「久涅が就任して排斥された半年後からだね。だから10年前の10歳だと言えるけれど…当時僕は最年少で、世間に公示するには小さすぎるという理由で、"次期当主代理"という、見習いのような肩書きでの研修期間が1年設けられたんだ。だけどあくまでそれは対外的な話。
公式に次期当主という肩書きに昇格したのは、2年目に入った8年前、僕が12歳の時だ」
そして元老院のお披露目会に、櫂が現れたんだ。
――父上、僕に次期当主を!!
次期当主となった櫂は、当時9歳。
若すぎると危ぶる者はいなかった。
そう言わせないだけの力量を見せつけた。
僕と…櫂の、能力の差だ。