シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「君は大物だよ…」
由香ちゃんが苦笑いにて、嘆息している。
「こんな意味深長な文章を生"体感"しているはずの君は、その場で"寝てた"のか。いや…ま、君の家だし? 眠くなったんだから仕方が無いよな。で、何処に久涅が出て来るんだよ」
「話を聞いている時、席が隣だった。オレが欠伸をしている横で、真っ青な顔でぶるぶる震えていたから、背中を叩いてやった。礼を言われて、名乗られたからオレも名乗った。仕方なく。それだけだ」
「…ほらみろ。久涅でさえ"ぶるぶる"している状況で、君は…ぐうすか"寝てた"のか」
寝てた、の部分だけ由香ちゃんの声が裏返る。
何で久涅は震えていたのだろう。
ただの惰弱の体現なんだろうか。
「"寝てた"なら情報はバアか。"寝てた"間に何が起こったのか…」
「……ただ、後で見た時、誰も居ない大広間に…」
僕達は、久遠を見る。
「血の臭いがした。地下は綺麗に片付いていたけれど…あの独特の臭いは、消えていなかった。それが妙に違和感あったのは覚えてる。それだけだ」
「"それだけだ"って、何か起こってたんじゃないか!! 君が"寝てた"時に!!! 何で気づかないんだよ、君は危険を察知する力はあるだろ!!?」
「地下は防音だったし、オレの部屋は離れているし。あんな子守歌のような話を延々と聞かされ、眠たかったんだ。眠い時に寝て何が悪い」
威張り腐る久遠。
由香ちゃんは、途方もなく大きな大きな溜息をついていた。
「血が香る異常事態に、事前も最中も事後も"寝てた"なんて…」
「由香。若気の至りだ。成長した今のオレなら危険を感知…」
その時だった。
僕と久遠が顔を見合わせたのは同時。
僕達は立ち上がった。
「「ど、どうしたんだ!!!?」」
由香ちゃんと三沢さんが驚いた声を発した。
「オレの術が破れた…」
「瘴気が膨れあがっている」
この気は…
「黄色い外套男が、階下に居る!!!」
芹霞!!!!
蓮!!!
僕達は走った。