シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


「それは――…

贖罪にはなりえない」


言霊のような強制力を持って、僕達の心に響き渡り…動くことが出来なかった。


かつて――…

悲劇で終幕することで、

自らの贖罪としようとした久遠。


彼を思い留まらせたのは芹霞の存在。

生かせたのは芹霞。


彼の中で、"贖罪"は…どう意味を変えたのだろうか。

そしてその単語を、黄色い男に向けたのは…何故なのか。



「禁忌を犯した罪は――

自らの生で償え」



禁忌?


「お前は"それでも"――

死んではいないのだろう?


ならば…生きよ」


久遠は何かを悟り、そして黄色い男に諭しているように思えた。


誰も動かない。

久遠の言霊に縛られて、動けない。


それに抗うように、

自らの音を奏でたのは黄色い外套男。



『ゅ……は…』



それは呼吸音か…言葉なのか。

僕には、ゆか、と呼んでいるように思えたんだ。


殺意よりも狼狽。


由香ちゃんの知り合い?

僕も、知っている奴?


そう思えば…


この男の視線を、僕は何処かで感じたことがあるように思えて。


何処だろう?


それを思い出そうとしていると、



「行け」



久遠は外套男にそう言った。



「"約束の地(カナン)"での命令権はオレにある。

此の地に一度でも足を踏み入れたのなら、お前はオレに従う義務がある」



久遠は…気づいたのか?


「オレに…言霊を使わせるな」


黄色い外套男の正体に。




「行け」


手負いの久遠は…王者のような圧を放つ。

誰も口を差し挟めない、緊張した空気が張り詰める。


これが言霊の力ではないとすれば…久遠の…生まれ持った王者の素質なんだろう。



男は…少しだけ躊躇う様子を見せたけれど、


ガッシャーーーン。


窓の硝子を破って外に飛び出し、消えたんだ。


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