シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

「ななな、何で逃がすんだよ、久遠!!!」

由香ちゃんが騒いだ。


「あれは…捕えても意味がない者だ」

「だけど蓮を殺そうと「意味がない」


久遠のぴしゃりとした言葉に、由香ちゃんは押し黙った。


「久遠は、あの男の正体に気づいたのか!!? あれは誰なんだ、久遠!!?」


僕は思わず、焦ったように聞いてしまった。


「紫堂玲…。

力を使いながらそんなに叫ぶ元気があるのなら。

せりと…あの馬鹿を…

探しに行け…」


久遠は、煩そうに眉間に皺を寄せて目を閉じて、そう言った。


「だけど!!! 久遠の傷は深いんだ。せめて血を止めないと…」


「オレなら大丈夫だ。オレは回復術はないが…この特殊な土地がオレを簡単には死なせない。

だけど、せりとあいつは違うだろう?」


向けられたのは、心に突き刺すような…瑠璃の瞳。


「"約束の地(カナン)"に悲劇はもう要らない。


オレはせりの屍を見るのも…

せりの泣き顔も…見たくない」


その悲壮感漂う声色に…

僕は…ぐっと言葉を詰まらせた。


「久遠様がそう仰ってる。早く行け」


それは蓮の声で。


「お前の結界のおかげで、血の勢いは止ってきている。

命に関わることはない。

あとは応急処置をするから心配ない」



蓮は、いつの間にか救急箱を持っていて。

隣には三沢さんが、ガーゼを大量に抱えていて。


「行けよ、『白き稲妻』。力がない者はない者なりに、原始的方法で知恵を振り絞る」

「うんうん師匠。ボク、必死に血止めするから!!! 文殊の知恵だ!!! 旭を見つけたら戻してよ。あの"しちゅ~"やクサを食べさせないと」


「!!!!!」


久遠の顔が引き攣った。


久遠も…食べたんだろうか。

あのゲテモノ料理…。


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