シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「苦しいな、苦しいよな。
お前…頑張ってたもんな。
12年間、ずっと想い続けて
頑張っていたんだもんな」
涙交じりの声が聞こえてくる。
――…ちゃああん!!!
何故か、つられるように…
あたしからも、涙が零れ落ちた。
ずきんと胸が痛む。
しかし罪悪感のような不可解のそれは、頭の痛みに掻き消されていく。
ずきっ。
「…お前を1人にしないから。
お前の頑張りを、
俺は否定しないから」
ずきっ。
「だからさ――」
そして煌が…櫂の背中を叩く。
「櫂…帰ってこい」
ぽんぽんと子供をあやすように。
ずきっ。
そして――
「本当のお前に――
戻れ!!!
――馬鹿野郎!!!!」
その頬を拳で殴ったんだ。
同時に走る強烈な頭の痛みに、あたしは思わず屈みこんだ。
紫堂櫂は…無抵抗のまま地面に倒れて。
目が――
あったような気がしたんだ。
そこにあったのは残忍なものではなく。
冷ややかさなど何も無く。
何であたしが恐怖を感じ、憎憎しく思ったのか判らない程、ただ怯えたような…か弱い…幼い少年の顔で。
揺れた漆黒の瞳が、頼りなげに揺れた。
"きらわないで"
そう、唇が動いた気がしたのは、
あたしの気のせいだろうか。
"すき…"
悲しく…
微笑んでいるように見えたのは、
あたしの気のせいだろうか。
やがて。
風が…止んで。
闇も消え…。
気づけば…久涅まで消えていて。
あたしの頭の痛みも消え去って。
あたりは…静寂に包まれていた。