シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
久遠の希望で、悪臭漂う部屋を変えることになった。
移動中、やけに大きい男が私に声をかけてきた。
――おお、お前さんが『漆黒の鬼雷』か!!! よろしくな、俺は三沢…と言っても、『白き稲妻』しか本名を呼んでくれないから、クマでいい。俺はクマだ!!
一体…どんな理由でもって"クマ"なのか判らないけれど、笑うとやけに子供っぽくなる…結構な美形。年は…30代後半から40代くらいだろうか。
玲様の知り合いなら、身元は確かなのだろう。
――クマ、ちょいと機械室で様子見てきてくれないか? それと…試しに、師匠のパスワード探しを、伝説のハッキングでしてみて欲しいんだ。
クマは、任せろと拳を上げて、のしのし2階に上がっていった。
部屋に居るのは、私、久遠、蓮、遠坂由香と聖…意識ない緋狭様だけだ。
久遠が詰問する。
「まず1つ。緋狭が受けた呪詛とは…どういうものだ」
「呪詛は呪詛や。時間を進める呪い」
「それを解くには?」
「時間を逆転すればええ。何や、葉山はん、周涅はんや雄黄はんの言葉聞いてなかったのかいな。結構そそっかしぃ…」
私は――
拳を聖の顎に入れた。
「納得出来るはずないだろうがッッッ!!!」
「ひいいいッッ。なんやねん、葉山はん何怒っとるねん!!」
「お前があんなことを仕出かせねば、緋狭様は…緋狭様は!!!」
「ルールやさかい、仕方がないんや!!! それが"監視人"の務めやし、それを判ってて罰則(ペナルティ)犯したのは、紅皇はんの方や!!!」
「威張り腐るな!!!!」
私は――
その顔面を蹴り飛ばした。
「うわっ…顔面に靴跡なんてギャグ、初めてリアルで目にした」
「由香。クサがなくともよかった気がしないか?」
剥き出された緋狭様の背中。
そこにあるのは…どう見ても電子基盤。
黄の印の位置にある刺し傷は癒えているというのに…そこから外側に広がる電子基盤の模様はまだ明瞭で、中央の紫色は…初めて目にした時よりも濃い色になっている気がする。
壊死。
どの程度の紫色で、緋狭様の肉体は朽ちてしまうのか。