シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


「桜。…櫂が先刻…

"玲"って…泣いたんだ」


煌は唇を噛み締めて。


「櫂は玲を嫌わねえよ。

嫌えるものか。

櫂が…乗り越えねえといけないんだよ、此処は。


惚れ抜いた女が、他の男を想う。

それは確かに残酷すぎる現実だけど…


多分。櫂を判ってやれるのは、

幼馴染で…同じ立場の俺だけだ」


私は今更のように思う。


芹霞さんが、自分ではない男を想うことを心底辛く感じるのは、櫂様だけではないと。


「煌……」


「んな顔すんな。俺は大丈夫だからさ。辛くても…俺は自業自得で。それにこれくらい、櫂の心に比べれば…」


ほろり。


煌の目から涙が零れて。


「あれ、何だろう。あれ?」


武骨な手で、擦っても擦っても止まらぬ…煌の涙。



だから私は――

煌に背を向けた。


見せたくないはずだ。

辛い涙は。


煌だって…

ずっと芹霞さんを想い続けている。


櫂様の記憶がなくなり、芹霞さんが玲様を選んだという事実は、

それでなくとも嫉妬深い煌にとっては、かなりの痛手のはずで。


抜け道のない魔の永久運動のような…それ程の苦痛を受け続けているはずで。



『櫂じゃないなら、

何で俺じゃない!!!』


そう叫びたいのが率直な心情。


煌の…傷心から滲んで零れ落ちたその雫は。

煌の心が叫んだ、想いの切なさは。


報われたい。

だけど今、自分の心は抑えねばいけない。


理性と本能がぶつかった証。

煩悶の涙。


それは…櫂様と玲様の切なさが引き出した…共鳴の雫。


私もまた――

頬に伝わる涙を、手で拭った。



今は、それ所じゃないから。


それは私だって…


判っているから――。

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