シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「なあ玲…」
煌が身を屈めながら、僕に聞いてきた。
「そんなに沢山指動いて、全部のキー押してるように見えるのに、押してねえのもあるんだな」
僕は純粋に驚いた。
「え? 見えるの、僕押しているキー」
「俺、目だけはいいんだ。特に動いているもんについては、緋狭姉に嫌っていう程鍛えられたし」
「…頭は悪いけどな」
久遠の本当に小さい呟きにぴくりと反応するあたり、煌は耳も凄くいい。
ワンコ…。
いやにしつこすぎるワンコの意味…。
もしや…パターンを見つけられるキーパーソンが煌?
「煌、僕が押してないキーはどれだ?」
すると煌が指差しながら言った。
「3hbpczsu1…ええと、次はオタマジャクシみたいな…」
「オタマジャクシ?」
由香ちゃんの怪訝な声。
「ほら、点書いて下がにょろっと」
「にょろ?」
皇城翠の声。
「カンマのことか? 数字の桁区切りに使われる…」
三沢さんの声に、煌がそうだそうだと喜んだ。
「そのカンマの次が、fv…次は…んんと…」
最後が小さくて何を言ったのか判らなくて。
「へ」
「へ? 平仮名かい?」
「おう」
「…のはずはないな」
三沢さんの声。
「半角状態でキーを叩いているし、何よりそのキーボードには平仮名表記はしていない。だったら…ハットマークか? への小さい…」
「そうそう、小さい"へ"だ」
久遠と思われる、大仰な溜息が聞こえた。
「如月。お前の知識のなさの解釈に、無駄に時間がかかるから、紙に書け」
久遠が紙とペンを渡したようだ。
音からすれば、煌は素直に該当キーを紙に書いたらしい。
「3hbpczsu1,fv^-jn]/m78ol.\」
由香ちゃんが読み上げてくれた。
「この早さで物を認識出来る動体視力があるというのに、読解力がないとは何と嘆かわしい…。何と残念な奴だ」
心底憐れんだような、蓮の声が聞こえてきた。