シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「いや…元職場で、平仮名入力の奴が居て、半角状態になっているのに気づかず、文章を打ち終わってから"しまった!!"と騒ぐ奴が居たんだ。そいつがよく"@"を出していたからさ。何でも平仮名打ちでは、濁点になるらしいが。案外それも、文章になっているかもしれんぞ?」
「そんな簡単なわけないって。クマの浅知恵だ」
翠の笑い声が響く。
「そう言えば…紫堂玲への青い手紙、"byれいくんだけのまほうつかい"って処は、平仮名だったな…」
何気ないひと言だったけれど、確かにひっかかる要素はある。
そういう僅かな変化にヒントを隠しているのが多いのが、氷皇の特徴。
「ローマ字入力のボクは、平仮名配列なんて知らないけど…平仮名入力で意味が通るか、試してみる価値はありそうだね。師匠はキーに平仮名表記無くても平仮名打ちは出来るかい?」
「僕? 出来ないことはないとは思うけれど…自信ないな。常時、ローマ字入力…というより、英数字でプログラムばかり組んでるからね」
「じゃあクマは…そうだよね、君も同じだよね。プログラマーは平仮名無縁だからね。蓮は、ボクが教えたからローマ字入力だし、面倒臭がり久遠と機械ボカンの如月は…問題外。
君はどうだい、小猿くん」
「俺、平仮名打ちだけど…」
「何だい、小猿くん!!! ブラインドタッチの訓練までして、ローマ字入力にしなかったのか!!?」
「だってさ…ローマ字入力の場合、平仮名入力より、多くキーを打たないといけないじゃないか。"つ"は、"tsu"だろ? そんなちんたらやってたら、ゲームCLEAR出来ないじゃないか!!」
「ゲームCLEARの為にブラインドタッチを覚えたのか。まあいいや。だということは、平仮名入力慣れしているのは小猿くんのみ」
「あへ?」
何とも奇妙な声を出した翠は…少しだけ、後退っているようで。
「まさか…俺の記憶を頼りに…この72字を平仮名に直せと…?」
「そう」
「無理、無理無理無理無理!!!」
「無理じゃないよ。君だけが平仮名配置を体で覚えている」
「無理無理無理無理!!!」
「無理とは言わせないよ!!? ああ、ありがとう。君は気が利くね、蓮。ほら小猿くん。蓮が手書きで48キー書いてくれたから、それに手を合わせて平仮名変換するんだ」
「無理無理無理!!! 暗記が出来る程頭よかったら、俺…もっと凄い術使えるって!!! わわわ、離せよ、ワンコ!!!」
「小猿!!!」
「君だけが!!!」
「「救いの猿なんだ!!!!」」
………。
「「偉大な猿は君(お前)だけだ!!!」」
………。
「し…仕方ねえな…」
顔を見ずとも判る。
鼻の下を伸しただろう皇城家次男は、素直に椅子に座ったようだった。