シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

・時間 玲Side

 玲Side
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「玲、この男…本当にお前の父親か!!?」



煌の声に…

僕は唇を戦慄(わなな)かせながら頷いた。



「間違いなく――…

僕の父親だ」



どんなに思い出が薄い…父親であれど、実の親の顔くらいは覚えている。

ここまで爽やかで穏やかな表情をしていた記憶はなかったけれど、この面影は間違いなく若き日の父。


櫂の…当主の実兄で、

そして実弟に殺されたという…

女遊びが激しかった僕の父。


僕が生まれる前までは、真面目だったという噂も聞いたことがあったけれど…それは僕が次期当主だった時だから、僕へ気遣っての言葉だったのかも知れず、真偽の程は判らない。


僕の母は――

旧家育ち故の高慢さと、次代当主に嫁げなかったという屈辱、そしてそんな母親に見向きもしなかった父親の、酒と女に溺れた軽率な行いのせいで、生まれた僕に執着し…"次期当主"という地位に僕をつけることに拘(こだわ)り始めた。


その結果が気狂いの血の開花というのなら、これほどまでに憎憎しい父親も居ないだろう。


僕にとって父親は、この世に僕を産み落とすために必要であっただけの存在で、心の拠り所ではない。


だから櫂の父親が僕の父親を追い詰め…"兄弟殺し"を秘匿していても、僕にとっては他人事のような薄い情しか湧いてこない。



血の濃さに情など比例しない。


それが僕が紫堂で学んだものだ。


それでも…

櫂の母親と僕の父親が出来ていて、そこに久涅が誕生したというのは・・・僕にとっては衝撃的だった。


僕自身に対してではなく、櫂に対して…申し訳ない気持ちになってたまらなかった。


櫂とて両親の愛には恵まれていない。


その櫂が、ここまでの動揺を見せるということは…今まで櫂が口に出さずに秘匿してきた、幾許(いくばく)かの愛情はあったんじゃないだろうか。


そう考えたら、これもまた…櫂への裏切りで。


僕という存在自体が、輪廻のように"業"を引き継いでいる、罪深き者ではないかと…そう思った。


僕は、何処までも…櫂から愛情を引き剥がしていく。

僕という存在が櫂を追い詰めていく。


これでは駄目だ。

駄目なんだ。


僕はこんなことは望んでいなかった。


僕は――…。


僕は!!!




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