シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
紫堂当主は…憎らしい程悠然と玲と桜の方に歩いてくる。
肩から芹霞を下ろした久遠が、間を割るように前に進み出た。
その毅然たる姿は、腐っても良家の当主の貫禄だ。
頼もしい…なんて思っちまう。
「久しぶりだな、各務久遠…。
会ったのはたった一度なれど…
まるで変わらぬ姿は、驚嘆に価する」
先に口を開いたのは、櫂の親父。
「…ふっ。意外に耄碌(もうろく)していないものだな、紫堂当主。
オレの記憶では、もっと若かったはずだがな」
遠く離れていても…互いが腹の底で牽制しあっているのが伝わってくる。
決して――
好意的な感情で互いに接してはねえ。
むしろその逆。
「ああ、あれは"約束の地(カナン)"が出来る前。私が紫堂の当主に成り立ての頃。
それは老けるだろう。
まともな人間ならば――」
くつくつ、くつくつ。
それは…永らえる久遠のことを卑しんだかのように。
「随分な挨拶だな、人の領地で」
久遠は何も気にしてないとばかりに、軽く返す。
「久涅を寄越して"約束の地(カナン)"をボロボロにさせて…当主自ら乗り込んできて…そして何が欲しい? レグが隠匿したという金か?」
すると親父は笑いだす。
「ほう? 金などあるのか、この地には。初耳だな」
伊達に紫堂の当主をしていねえ。
簡単に手の内を晒さねえ。
「随分と言いがかりをつけるが…何処が"ボロボロ"だ?
こんなに華やかで大勢で賑わっている遊園地で。
スポンサーとして、これだけ大賑わいは嬉しい限りだ。
もっともっと…オーナーとして遊園地の発展に努めてくれ」
くつくつ、くつくつ。
「それより」
突如笑いをやめた親父は…
「玲」
玲を見たようだ。
その口調は…優しさの欠片など何もなく。
玲が如何に冷遇されているのかを物語る。