シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
頭を深く下げたままの玲。
横には片膝をついて頭を垂らした桜が居る。
当主と同じ地平に立ってはいけねえ…それは紫堂内での暗黙のルール。
頭を垂らさず迎えようとするのは、紫堂を恐れていない怖いモノ知らずの俺ぐらいだ。
直系の櫂や久涅とて、慇懃(いんぎん)な追従姿勢は崩していねえ。
「玲…」
当主が再度玲の名を呼ぶと、玲は静かに顔を上げた。
「お前が公共電波にてしでかしたことについて、私は皇城に頭を下げた。それについてお前は何かを言うことはないのか」
芹霞との…あのテレビのことか。
会うなり言うことは、紫堂の体面…か。
「ありません。あれは…僕の覚悟です」
玲は毅然と言い放った。
「お前は紫堂の次期当主という肩書きを抱く。全ての行動や発言は、紫堂に返ること、お前は判って居ないのか。そこまで愚かか」
「愚かであろうと…あれが僕の意思です」
「調子に乗るな、玲。お前のような"弱者"を次期当主にしてやった恩義を忘れ、一丁前に"意思"などと…たかが"道具"が何をほざく」
「恐れながら当主」
庇うように言葉を割ったのは桜。
「控えよ。お前に発言権はない」
「……御意」
桜は、上げた頭をまた下げた。
「当主。"道具"は道具なりの心があります」
「道具に心は必要ない」
ああ――
ぶん殴りてえ…。
それは俺だけじゃないはずだ。
櫂の体もぐっと力が入っている。
櫂は――
玲に対する情を失っているわけではねえ。
「必要なのは…僕の遺伝子ですか」
冷ややかな玲の声。
「知る必要はない。利用価値があるだけ、恵まれていると思え。利用価値など無くなれば、即座に切り捨てる。
横須賀で無様な姿を晒した…"アレ"の二の舞になるぞ?」
「"アレ"ではない!!! 櫂だ!!!
櫂は…貴方の子供でしょう!!」
玲が語気を強めた。
「そこまで櫂を蔑(ないがし)ろに…他人のように扱い冒涜するのは――何か理由でもあるのですか!!!」
玲が、当主に反論するのを聞くのは初めてのような気がする。
「…玲。それは…死んだ"アレ"の母親が不義を働いたとでも言いたいのか?」
その声音が一段と低くなり、櫂の体が強張ったのを感じた。