シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「あ…そうそう」
久涅がわざとらしい声を上げて、体を横に向け…桜の近くに赴いた。
「丁度此処に警護団が控えているから、
現次期当主の指揮を高めてやろう。
――警護団長」
桜の体がびくりと揺れる。
「次期当主に、絶対的なる忠誠を誓え」
つまりそれは――
「紫堂玲こそが自分の主だと。
他の誰もに従うことはないと」
櫂ではなく、玲を主人と宣言しろと言っている。
判っていて、久涅は言っている。
櫂が此処で耳を澄ませているということを。
「次期当主を守ることが警護団長の務め。
"死んだ"無様な男ではなく、
横に居る玲こそが主人だ。
だから、簡単だよな?」
桜…。
「誓え、『漆黒の鬼雷』」
桜…。
「僕は、そんな誓いは要らない!!!
桜は…桜だ!!!」
玲がそう助け船を出すけれど…
「警護団長としての当然の意思確認をしているまで。
誓えぬというのならば、
謀反とみなして排斥か、」
そして久涅はくつくつと笑う。
「"永遠なる旅路"に追放になるかもしれないな。
前代の…警護団長のように」
桜が、顔を上げたのが判った。
「ん?」
判っていて、久涅は笑う。
前代の警護団長というのは桜の父親だ。
桜は…櫂が次期当主になった後、父親の役職を引き継いだ。
警護団長は、警護団一の強さを持つ者に与えられる。
つまり桜が引き継いだ時点で、対外的にも…桜が父親よりも強いということを周囲に知らしめさせた。
あいつは家族のことは口にしない。
しかし…強さを信じ続けてきた桜にとって、弱者になった父親という存在は、きっと唾棄すべき者で興味は限りなく0に近かったはずで。
そして弱者というものに対する紫堂の姿勢を考えれば…引退後も安穏とした隠遁生活をしているとは考え難く。
考えられることは――
消されたのか、紫堂に。