シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
久涅かと思わず身構えた俺だったけれど、
「どけ、如月」
中に入ってきたのは久遠だった。
燃えるような真っ赤な目をしていて、正直鳥肌がたった俺。
怒りなのか何なのか…とにかく興奮状態だということは判る。
「紫堂櫂から、どけ!!!」
俺は、迫力めいた言葉に逆らうことが出来なかった。
それは多分…言霊に近いだけの強制力を持っていたんだろう。
コクコクと頷きながら、櫂から体を離した途端、
ドガッ。
立ったままの久遠が、足先で…櫂の顎を蹴り飛ばしたんだ。
櫂が仰け反るようにして、床に叩きつけられた。
櫂に…。
櫂にそんなことをするなんて…。
俺は護衛で、本来ならば久遠に噛み付かねばならないんだろうけれど、だけど俺はただもう驚いて唖然として…ぽかんとしてしまって。
そして久遠は、今度は上から櫂の胸倉を乱暴に掴み、櫂の頬に往復ビンタ。
「駄々をこねて癇癪を起す子供には、仕置きが必要だ!!!
お前達は、こんな子供(ガキ)を奉(たてまつ)って甘やかしすぎなんだッッッ!!!」
容赦ねえ…。
櫂の頬が…真っ赤になっちまってる…。
そして放り出された櫂は、床を転がって。
仰向け状態に止ると、その目許を隠すように腕で顔を覆って。
「あああああああ!!!」
泣きじゃくったんだ。
本当の子供みたいに。
そこには――
『気高き獅子』の姿はなく。
ここまでの姿見たことがなかった俺は、軽蔑する気はまるで起きず、むしろ、そこまでになる櫂の心が痛くて堪らなかった。
「久遠様ッッ!!!」
そんな時、開かれたドアから、バタバタと蓮が走ってきて。
「言われた通りの…こ、これは!!!?」
櫂の姿に一瞬仰け反り、信じられないものを見たというように、目を瞠(みは)った。
久遠は黙って、蓮が手にしていた一升瓶を奪った。