シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
黒い一升瓶に赤いラベル。
見慣れたその瓶は――
「な、お前…それ、緋狭姉が好きな…『鬼ごろし』じゃねえか!!! しかも超辛口、飛騨高山の元祖・鬼ごろし!!!」
何でそんなものが、この家にあるんだよ!!!
「緋狭の"ボトルキープ"だ」
緋狭姉…!!!
いつの間にこんなもの、"約束の地(カナン)"にキープしてんだよ!!!
久遠は栓を抜くと――
「!!!!?」
それに口をつけ、飲み出したんだ。
グビグビ、グビグビと…。
あれ…『鬼ごろし』だぞ!!!?
凄い強い日本酒だぞ!!?
鬼も殺せる酒だぞ!!!?
緋狭姉を殺せまでは出来ねえけど、あのウワバミでさえ、3本目には"とろん"となるぞ!!!?
ああ――…
あんなにグビグビ、グビグビ…。
何で蓮は止めねえんだよ!!!
「やめろやめろ!!! おい、久遠!!!
急性アル中になるって!!!」
もう見ていられず、制止しようと手を伸した俺は、久遠の片手に軽く払われる。
グビグビ、グビグビ…。
何で突然、日本酒!!?
やけ酒か!!!?
グビグビ、グビグビ…。
おいおい、まだ飲むのかよ?
しかし…。
紅潮していく久遠の肌は、やけにいつも以上に扇情的で。
絶対久遠は、笑顔なくとも毒舌でも、座って酒飲んでいるだけで、全国№1ホストになれると思う。
グビグビ、グビグビ…。
そして久遠は、固まる俺の前に一升瓶を放った。
転がる瓶には…流れ出る液体はなく。
「ぜ、全部一気飲みしたのか!!!?
『鬼ごろし』を!!!?」
久遠は、ぷはーと盛大に息を吐いて、手で口を拭い…そして屈んで櫂の胸倉を掴むと、その体を持ち上げた。
「12年がなんだ」
抑揚ない声音。
櫂は固まった顔のまま…久遠を見ていた。
「12年の思い出がなくなったから…だからなんだ」
久遠の声は…静まり返った部屋に響き渡った。
「自分だけ、被害者面するな。
――見苦しい」
すると櫂の顔が辛そうに歪んだ。
「お前に――
俺の何が判るんだ、久遠ッッ!!!」
ドガッ。
久遠は、喚(わめ)く櫂の鳩尾に拳を入れた。
「だったら、お前は…
オレの何が判るというんだ!!!」
何となく…
判っちまったんだ。
「オレなんて――
13年…だぞ」
久遠が、酒を一気飲みした理由。