シンデレラに玻璃の星冠をⅡ




「お前は…生きているだろう、紫堂櫂。

お前は何処にでも行ける体もあるだろう?


何度も何度もやり直しが出来る恵まれた環境にいて、お前は何が不満なんだ!!!


これ以上――

オレを失望させるな!!!」



久遠は…

激情の男なんだろう。


何も執着しないフリをしていただけ。

興味がないフリをしていただけ。


だけど…久遠は逆なんだ。


いつもいつも、心に熱さを秘めている。


それを出そうとしないだけ。



生きていない。

ただそれだけの理由で。



その時、足音がして桜が飛び込んできた。



「櫂様に何を!!!!?」



状況を見て、久遠が櫂をぶん殴ったのが判ったんだろう桜が、久遠に詰め寄り、抗議に怒鳴ろうとした。



「桜…いい」



それを制したのは櫂で。



くつくつ、くつくつ。


そして櫂は笑い出したんだ。


それはいつものような不遜な笑いのようでもあり、嬉しそうでもあり…泣いているようでもあり…。


全ての感情を超越したような複雑な笑いを少しすると…


櫂は…俯いていた顔を上げたんだ。



「世話を掛けた」


そして立ち上がる。



………。


これが…

今まで子供のように泣いていたあの櫂か?


毅然とした漆黒の男は…

どこまでも孤高で美しく…


威風堂々としていて。



「礼を言う。

――酔っ払い」


久遠に微笑んだその顔は…

男の俺でも見惚れる程のものだった。



「生きている限り――


俺にはすべきことがある。



そう…緋狭さんにも言われていたはずだったのに」




「緋狭姉!!!?」



櫂は頷いた。



「久涅が現われて俺が暴走した時――

俺の意識が、現実逃避に深層心理に逃げ込んだ時――


そこに居た緋狭さんに怒鳴られた」



"私を失望させるな"



「久遠と同じことを言われた」


そう笑ったんだ。


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