シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
その時、カチャリと屋敷のドアが開いて――
「きっちり10分だ。文句はないな」
そう憮然と言い放って現われたのは、久遠と…桜ちゃんで。
久遠は、あたしと玲くんの繋がれた手を一瞥(いちべつ)して、直ぐに久涅に目を向けた。
「では――
返答を聞こうか、各務久遠。
紫堂に下るか――
"約束の地(カナン)"と共に滅ぶか」
「その前に…久涅」
久遠が静かに言った。
「お前の名の由来は――
偶然か、必然か」
名前?
『ねえ、知ってる? さんずいに日の下に土…涅槃の"ね"って…黒い色のことなんですって。涅色(くりいろ)っていうらしいんだけれど…黒と少し茶が混ざった色合いなんですって。私、漢和辞典で調べたの。
ねえ? ずっと私たちの可愛い子であるよう…永久の"久"を取って…』
「俺の名前の由来?
さあ? 別にいいだろう、そんなことは」
「では父親たる紫堂当主に尋ねる。
どんな理由でもって、"久涅"と名付けた?」
「………何が言いたい」
当主の眼差しは…怖かった。
睨み付けるような…そんな目で。
それを平然と受けた久遠は、薄く笑った。
「オレからの返答は――」
久遠は、真っ直ぐに当主を見つめた。
「"NO"」
あたしは、息を飲んだ。