シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

・雨滴 玲Side

 玲Side
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かつて――


"こういう顔"の芹霞は、"約束の地(カナン)"で見た。



櫂が芹霞を忘れて他の女を愛そうとした時。


傷つき果てた芹霞の、本能的な自己防衛からなる…仮面の笑顔。


本人は笑っているつもりなのに、笑うとは縁遠い…そんな顔。


あの時僕は、そんな顔をさせた櫂に憤った。


その僕が今、芹霞をそうさせている。


悲哀なんて言葉で片付けられるモノではない。

後悔なんてそんな安っぽい言葉で括れない。


酸欠に頭がくらくらとした。


息が…出来ない。

苦しくて堪らない。


痛い。


体中がバラバラになりそうに痛かった。



僕の言葉は、芹霞の耳からは擦抜けていく。

僕の姿は、芹霞の目には留まれない。


幾ら呼んでも…芹霞はまどろむような顔で、僕に興味を示さない。


僕ではない処に目を向ける。



雨。


激しさを増す雨。


それは僕の心の中だと思った。


ドドーン。


激しく鳴り響く雷は、


僕の慟哭だと思った。



あんなに天気が良かったのに――


嵐の最中に、僕達は…僕は居た。



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