シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
こんな時にでも、僕の嫉妬心は大きくなる。

僕ではなく煌の名が呼ばれたことに。

心の支えとして、僕の名が呼ばれないことに。


駄目だ。

考えるな。


…芹霞が益々離れて行くだけだろう?


僕は深呼吸をして息を整えた後、芹霞の手を握った。


微かな抵抗が感じられたけれど、僕は唇を噛んで…無理矢理恋人繋ぎにする。


聞こえてくるのは、小さな芹霞の溜息。


「――…っ」


僕の心を抉る溜息。


繋いだ手から感じられるのは、冷たい体温。


冷え切った…温度。


「…芹霞の手、冷たいね」


何も感じていないフリをして、僕はそう言いながら…芹霞の手に温かい息を吐いて、片手で擦り上げる。


芹霞は小さな欠伸をして、また首筋を小さく掻くだけで。


――玲くん、自分で出来るって…。


いつものような芹霞の言葉も出てこない。


僕は――思わず目を閉じた。


閉じた瞼に力が入り、小刻みに震える。



まだだ。

まだ"お試し"は終わっていない。

失敗で終わったわけではない。


「玲くん…トイレに行ってくる。すぐそこにあるから」


芹霞が僕から手を離して立ち上がり、歩いて行く。


「あ……」


手には――冷たさすら感じられなくなって。


僕はその両手で顔を覆った。


バングルの冷たさだけが、頬に伝わって。


切なくて切なくてたまらない。


不安定な僕の心は、手洗いに行く芹霞の行動すら、悪い方に考えてしまう。


どうかどうか――

僕から逃れる為の口実ではありませんように。


僕は顔を上げて、じっと…芹霞の消えた場所を見つめていた。


お手洗いの横の壁には看板。


『ライブは右のAホール、全国格闘オンラインゲーム大会"APEX"は左のBホール』


右手からは爆音が聞え、休憩を終えたカップルがそちらへ流れる。


僕はそれより…左方面に気を取られた。

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