シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
僕は順番待ちをして予選の席に座ろうとしていた女性に微笑みかけた。
「ごめんね、緊急事態なんだ。譲って?」
女性が赤い顔で固まった隙に、僕が座り込む。
後列からブーイングが飛ぶのは、元から了解してる。
「あはははは。いいんじゃねえの? どうせすぐ終わるんだからやらせろ!!!」
そんな野次が飛ぶのも、慣れっこだ。
…久々のアーケードのスティック。
カードを差込み、初期設定にて名前はいつもの通り"ZERO"にした。
それが不敗の優勝者の名前と同じだと気づいた奴らからは、失笑が零れたけれど。
僕なんだよッッ!!!
技の出し方とか…大丈夫だろうか。
僕は説明書代わりのパネルで技などを確認するけど、自信はない。
「まあいいか。適当で」
ゲームをスタートさせる。
そして――。
「すげえッッ!!! 10分もしないで、級ひとケタ!!?」
「連続TKO!!? はあ!!?」
「何で何で!!? 50級からのスタートで!!?」
目の前では、画面で段位の称号が贈られた。
僕の様子は大画面で皆に見られていたらしい。
この大会は、1回でも負けたら退場がルール。
本選に出るには、予選で13回の連勝と段位があることが条件。
ノーダメージでTKOを取れば、5級ずつあがるから、まだ10回だけの闘いしかしていないのだけれど…もう僕に野次は飛んでこない。
いつものことだ。
それに今は…鬱屈とした思い抱えていたから、手加減しなかった。
そして最後の闘いに勝つと同時に――
「玲くん…」
芹霞が僕の手を引いて、例の席に赴いた。
そこには…座るに座れないという感じの、あの男が呆然と立ち竦んでいて。
「本選、いいかな?」
僕が微笑むと、男はぶんぶんと頭を縦に動かして、どいてくれた。
「………」
瘴気の名残がある。
出所は…機械の中か。
「大丈夫、玲くんなら…」
何に対する"大丈夫"なんだろうか。
そして僕はゲームを始める。