シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
とにかくよく寝て、玲くんとの仲を回復させようと思ってはいたんだ。
身体がぬくぬくとなって、玲くんに優しく手を摩られた時には…がくっと完全な眠りに落ち込む一歩手前で。
これじゃ駄目だとあたしは手洗いに逃げた。
便器に腰掛けたら…魂が抜けたような心地がして、寝てしまうこと数分。
手洗いにいる誰かの携帯の着メロで目が覚めた。
やばい。
このまま爆睡してしまう。
だけど少しだけでも寝れたことで、あたしの意識は多少なりとも回復し、とにかく完全な覚醒を願って…折角綺麗に施された化粧を全てむ落とす勢いで冷水で顔を洗い、ぱんぱんと両頬を手で叩いた。
隣の女性がやはり眠いのか、大欠伸をしながら激辛フリスクを口に放り込んでいて。
じっと見つめていたらお裾分けしてくれた。
此の世も結構捨てたモノじゃない。
ひいひいと舌を出しながらフリスクの刺激に耐え、そして完全に目が覚めた時――首元の…あたしが痒みを覚えていた部分に、赤い痣のようなものが見えて。
襟元をぐいと引っ張って見てみれば…
「血色の薔薇の痣(ブラッディローズ)!!?」
2ヶ月前、何度も目にした曰く付きの…血のように赤い痣。
それがあたしの首筋に…まるで入れ墨(タトゥ)のように存在していた。
鮮やかに咲いた…血色の薔薇の花。
偶然…とは思えなくて。
どくん。
あたしの体の中の陽斗が、はっきりとした警告を刻んだ。
あれ…何で陽斗は、あたしの中にいるんだっけ?
まだ思考がまどろんでいるのか。
そこら辺が不明瞭だ。
この痣のことを玲くんに相談しようと手洗いから出て…さっきまでいた場所に戻れば…玲くんがいなくなっていたんだ。