シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

「出入り口閉まっているから…外には出てないよね」


唯一の出入り口は閉められて、そこは人でごった返している。


外から鍵をかけられているらしく、押しても引いても…強化硝子のドアはびくともしないらしい。


誰かが非常用の電話で従業員を呼ぼうとしたみたいだけれど、外の雷で…回線は断絶したらしい。


1人がパニックになって騒ぐと、誰も彼もが騒ぎ出す。

それは群集心理。


きっとZodiacのライブには警備員くらいいるだろうと誰かが行ったみたいだけれど…まだ帰ってこないらしい。


あたしは、その喧騒に満ちた集団の中に玲くんの姿がないのを確かめて、人の流れがある方に歩いた。


絶叫のような声が聞こえ、本能的に身構えた。


鳴り続ける重低音と、悲鳴のような大勢の声。

なんて熱狂的なライブになっているのか。

何だか一種の宗教になっているような。


Zodiacのライブには玲くんはいないだろう。


早々に引き返したあたしは、見取り図を覗き込む。


この建物は1階しかなくて、AとBホールと休憩所を兼ねたロビーしかないらしい。


だとすれば、玲くんがいるのは…ライブ会場とは反対側にある左手のホールのはずで。


『全国格闘オンラインゲーム』


矢印で誘導する看板が見えて、もしかしてそこにいるんじゃないかなと思った。


玲くんと由香ちゃんは、格闘ゲーム好きらしいから。

やってなくても覗くくらいしているかもしれない。


あたしを置き去りにしたわけじゃない可能性が出てきて、寧ろ…その会場に玲くんがいるのが自然な気がして…何だかうれしくなってしまったあたしはスキップしながら会場に向かった。


――ごめんね、芹霞。ちょっと…好奇心に勝てなくて。


そんな玲くんに笑いながら、あたしも一緒に見学しようかな。

玲くんに色々教えて貰って…愉しもう。



だけど。


「え…?」




『ゲーム大会は終了しました』




観音扉の前には、あたしの期待を砕く立て看板。


一応…看板無視してドアを押してみたけれど、鍵がかかっていて。

あたりはひっそりと静まり返っている。
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