シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


あたしがライブ会場に足を踏み入れた時、

背後で…バタンと扉が閉まった。


あたしは驚き、その扉を押したり引いたりしたけれど…扉はびくとも動かず。


開かずの間はあたし1人を誘い込み、勝手に閉じ込めてしまった。


これが偶然なら出来すぎだと思うけれど…これ以上の不安を掻き立てられたくない為にも、偶然であって欲しいと願わずにはいられない。



もしこの会場内に、黄色い蝶が残留していたら…

あたしは完全にアウトだ。



会場は真っ暗で、様々な色の照明が乱れ飛んでいる。


椅子などの備品は何一つない、真四角に区切られた密閉空間。


備品の代わりに床に溢れ返っているのは…"モノ"のように積み重なる多くの人体。


泣き声、呻き声…。

か細い声に混ざるようにして、発狂したような大きな声が重なって。


Zodiacの…機械的な曲と溶け合い、盛大なバックコーラスとなっていた。


ボーカルの音色は聞こえてこない。


ただ同じ曲だけが、狂ったように延々と繰り返されている。


昔の彼らの曲は、此処まで無機的ではなかった。


まだ少しは…人間らしい温かみがあったと思う。


それが今、機械の曲調と、苦悶の声が溶け合う所か不協和音を奏で、聞いているだけで頭が痛くなってくる。



そして正面の大画面。


青と緑の蛍光色がランダムな形に波打ち、恐らくは…"機械"の波形を演出しているんだろう。時折…平仮名の「ひ」の両側を丸めたような変なマークが、回転したり増えたり点滅したりして、目に刺激を与えてくる。


気持ち悪い。

そう思った。


確かに会場に充満する…吐き気を催す程の生臭さは、鼻で感じ取れるけれど、聴覚でも嗅覚でもなく、大画面の映像…"視覚"から、気分が悪くなっている気がした。


ランダムに動く蛍光色の波形が、あたしの脳の中の"何か"を刺激して、外部的圧をかけてきているように思えたんだ。


以前玲くんが、電気…電磁波は、自らが周波数を持っていて、それが個人の肉体が密かに持つ周波数と一致してしまったら、人体に影響が出ると教えてくれたことがあった。


だから例え子供向けのアニメだろうが、もしも身体に変調をきたすようなら、すぐ見るのをやめた方がいいと。


だったら、あたしはあの大画面は見ない方がいい。


そう思い、澱んだ空気の中で…口だけで大きく深呼吸をし、気合いを入れる為に頬を手でぱんぱんと叩いた。


さあ――

玲くんを探すんだ。


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