シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

「久遠にも、お気に入りのブランドってあったんだ? いつもカジュアルな白シャツとズボンばかりで、そういうの興味がないと思ってた」


遠坂がキーボードを叩きながら声を上げた。


「ああ。別に久遠様はありきたりで安物のシャツを着られているわけではない。同じように見えても、それなりにこだわりがあるのだ。とにかく既製品は着られない。必ず高級品をオーダーメイドだ」


誇らしげに蓮は言うけれど…

ただの無駄遣いだ。


紫堂に借金しているくせに…お前何散財してるんだよ。

その放蕩体質、何とかしろよ。


俺でさえ、久遠の格好はいつも同じだと思っていたが…よりによってどれもこれも酷似した一品ものばかり着て、何が嬉しいんだ?


「その久遠様が、新たなブティックに興味を示されて。値は張るが、中々洗練されたデザインなのだ。お前達は知ってるか? 


"アレス=イオア"」


「へえ!! あのブランドが"約束の地(カナン)"にオープンしたんだ!!!」


俺だって知っている。

世界的評価の高いブランドで、多くの古参デザイナーが褒めちぎっている。

謎多き"アレス=イオア"は、一切の情報が開示されていない。


そして確か――

玲が…ネットや雑誌でよく見ていたブランドのはず。


玲といい久遠といい…

女が喜びそうな美形に好んで着て貰えるのなら、"アレス=イオア"も満足だろう。


「久遠様!! 大好きな"アレス=イオア"を着るんですよ!!? え、面倒? 本当に貴方様は…………。久遠様…」


蓮が久遠に小声で言っている。


「この前芹霞に見せられなかったあの服、テレビで映れば…直ぐに芹霞に見て貰えるかもしれませんよ?」


「……。蓮。風呂と服の用意を」


「御意」



蓮はパタパタと部屋から出て行く。


………。



「何」



俺の視線に気づいた紅紫色の瞳が、こちらに向く。

本当に嫌そうに。



聞こえてるんだよ、久遠。


お前…だから余計機嫌悪かったのか。


まさか…着飾ったまま――

"約束の地(カナン)"来訪予定日に、芹霞が来るのを待っていたのかよ?
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