シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
私達は外に出てみることにした。
まだ夕刻なれど…空は雨雲に覆われているせいか、暗かった。
嵐のような雨はもう止んでいる。
建物の外にも人影はなく、しんと静まり返るだけ。
来園客も従業員も…何1つ動く気配は感じられない。
「あの蚕…かな」
玲様が指し示したのは地面。蛇行するように、何かが引き摺ったような跡が所々に見えて、それを追いかけたてみたが、途中でこの痕跡は消えていた。
移動したのか、消滅したのか。
そして点在していたどす黒い染み。
「濡れた地面の上じゃ、これが何かの真紅色の血なのか、違う色の…蚕の中身の体液なのか…判らねえな」
馬鹿蜜柑の嗅覚も…雨の湿った匂いに掻き消されているようだ。
「死体がないということは…人間の血じゃねえってとこか?」
「少なくとも、あの蚕の体液は…黄色だったね」
玲様の声。
黄色。
蝶も黄色。
「あの蚕は大きくなったら…何になるんだろうね」
地面に消えた跡。
空に…舞った可能性もある。
もし飛び去ったというのなら、それは今度は何処にむかっているのだろう。
「見事に全員…いなくなっちゃったね」
芹霞さんが呟いた。