シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「あの男…食えぬな。口だけが達者な虚勢ばかりの輩でもあるまい。最低限…お前を此の地に追い込めるだけの力がある」
――お前は、地獄を見るぞ。
各務久遠にとって何が地獄か、その定義は曖昧だが…。
確かに――
俺が"約束の地(カナン)"に居る限り。
"約束の地(カナン)"の住人に迷惑がかかる。
俺の存在は…久遠には、久涅の攻撃材料となる。
「なあ蓮。紫堂の兄貴と久遠は、知り合いだったのか?」
――……随分な変わりようだな
「私は判らぬのだ。ただ少なくとも、各務家が"約束の地(カナン)"に移住してから、私が知る限りにおいては…あの男は見ていない。
だとすれば、"約束の地(カナン)"より以前」
つまりは…久遠と芹霞が出会った時か、それ以前。
13年前以前。
その頃…久涅は玲の前の、紫堂次期当主だった…可能性がある。
紫堂の公用か、私用か。
ただ久遠の言い方では、然程深い付き合いがあったわけではなさそうだ。
1、2度程度の…顔見知りくらいか。
「久遠の言葉では…何だか紫堂の兄貴は、昔と様子が違っていたようだな。久遠が年上か…。あんなにふてぶてしい兄貴でも、久遠の実年齢には至ってないんだな。何だか意外」
実際、久涅という存在は…何一つ判っちゃ居ない。
玲の前の次期当主で、残虐性が強すぎて親父に嫌われ追放された。
今と何一つ変わっていないように思えるのに、久遠がすぐ気づかなかったのは何故だ?
――初めは判らなかったさ、その姿に惑われて。
確かに肉体は変われど、根本である存在が放つ"気"は変わらない。
それでも久遠ほどの男が、
気を掴むのすら…朧過ぎる記憶しかないと?
――そこまで"模倣"しているのか?
模倣とは――
――"模倣"は…あいつの方だ!!!
俺の方か?