シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 

「彼氏さん。彼女さんが好きですか?」


すると玲くんは…それまでの可愛らしさをするりと消し、

大人びた端麗な顔で艶笑した。


「ええ、愛してます。

僕には…彼女しか考えられません」


プラス、"とろ~り"。


「もう…他の誰も愛せません。

僕の妻は、彼女しか考えられません」


思わず――

どっきりして、心臓がばくばくと苦しくなった。


落ち着け、落ち着け。


大体判ったはずだ、これは演技だ。


テレビ向け設定は、結婚を控えたラブラブカップルが、彼女のドレス選びにこの店に来た。


そして彼氏がまとめる。


「彼女を…こんなに綺麗にしてくれたこの店を

僕は生涯忘れることは出来ません。

本当に…感謝しています」


綺麗な綺麗な玲くんが、それは幸せそうに笑えば、

周囲の誰もが…ほうっという溜息しか出てこない。


そんな時やってきたのは店長さん。


「そんな一生の記念のドレス。

1回で着終えるというのが残念ですよね?」


そしてあたしに恭しくお辞儀をすると、

パチンと指を鳴らした。


そこには呉羽元総長。

やはりあたしにしか聞こえぬ程度の舌打ち寄越しながら…


「せ~の!!!」


店長の掛け声で、彼女はあたしのドレスを剥ぎ取った。


すると中からは…カジュアルなお洋服。

レースが可愛いブラウスと、ミニスカート。

基調は、ウェディングドレスのふわふわ感。


あっという間の早変わり。

宝塚も吃驚だ。


「いつでもあの愛の記憶は、お手元に。


時間を巻き戻す――

永遠の魔法を貴方に!!!」



そして店長が意気揚々と叫ぶ。



「いつでも変身できるシンデレラシリーズは、

当店のみのお取り扱いです!!」



最後に店長が、満面の笑みで両手を広げてそう言い切れば、割れんばかりの大拍手。

アズサも本気で感動して手を叩いているようで。


「ありがとう、ありがとう!!

結婚式にも、それ以外にも――

当店の洋服をご贔屓に!!!!」


今や主役は店長で。

チーフと繋いだ手を上に上げて、お辞儀をしている。


まるでアンコールがかかった、カーテンコールの一幕だ。



あたしは…



一体何だったんだ?



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