シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
一度目にした高級マンションが見えたあたりで、畜生'Sの耳からは手が離れぐったりして伸びていた。
遠ざかることで音が聞こえなくなったからか、私の引き摺り方が乱暴だったのか。
確かに途中、がごんがごんと何処かに何かがぶつかったような、重低音は響いていたけれど。
ま、仕方が無い。
生きているだけ、感謝して欲しい。
二匹は動く気力すら奪われたようで、私はまるで死体をずるずる運んでいる気分だ。
私はマンションの建物の最上階を見上げた。
灯は――ついている。
誰かが居る。
七瀬紫茉か、七瀬周涅か――
朱貴か。
とりあえず、この凸凹畜生コンビを外放置するわけにはいかない。
もし周涅が居たら――
私と煌が訪問したことを怪しまれる前に、音にやられた翠を拾ったと…彼を前面に押し出して…治療ということで部屋に乗り込み、煌の回復を待ちながら誤魔化し続けるしかない。
"玲様と皇城との結婚話を破談にしてくれ"
周涅相手にまともな会話は成り立たないだろう。
煙に巻かれるか、逆に脅されるか。
それだけならいい。
妙に勘がいい周涅だから、"約束の地(カナン)"に居るはずの櫂様を気づかれないようにしなければ。
何よりこちらには単細胞の馬鹿犬がいる。
衝動的に何を口にして吼え出すか判らない。
芋づる式にならぬような細心の注意と、効果的な策が必要だ。
それだけに、唯一周涅の対抗策となりえそうな朱貴が…その彼を動かす皇城翠と七瀬紫茉が必要だと此処まで来たんだ。
彼らを取り込むまでに、結婚話の話題に触れれば藪蛇(やぶへび)になりそうな気がする。
周涅が居たからと、このまま全てを残して帰りたくない。
必ず何かに繋げたい。
玲様を助けるんだ!!!
願わくば…周涅が居ないように。
祈るような心地で、伸びている2匹をエレベーターに押し込め、私は最上階ボタンを押した。