シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 

芹霞の心は櫂を思い出したがっている。

それを二度も僕は押さえつけた。


芹霞の心は、弱まっているのだろう。

甘えるように僕の腕にしがみつき、まるで離したくないという素振りを見せるようになったのは・・・


――君が愛したのは…僕だよ。

――櫂は…いない男…だ。


僕の言葉が誘引したものだ。


目の前で逝った櫂のショックから、無意識に僕を櫂と混同して…僕にすがるようになっただけのこと。

判っている。


こんなに揺れる目は、"僕"には向けていない。

独占欲に満ちたような切ない目は、"僕"に対してのものじゃない。


僕に甘える素振りを見せるようになったのは…櫂と混同してるだけ。


僕に対する執着心ではない。


ダッテキュウゲキスギルダロ?


だけど錯覚でも自惚れたい僕は、

突然の芹霞の花嫁姿に泣きそうになった。


これが現実のことなら。

僕が芹霞の隣に立てれば。


僕はどんなに幸せだろう。

思うだけで蕩けそうな至福感を感じた。


そんな僕に、今度…芹霞が向けたのは、母性に溢れた眼差し。


僕は僕なのに…今度は昔の櫂を見出した。

これ以上もない程綻んだ笑みを見せたんだ。


好きで好きで仕方がないというような、そんな笑み。

愛しくて堪らないというような、そんな笑み。

事情を知らねば、完全誤解しそうな…そんな笑み。


何処までも僕は櫂の身代わり。

そう思ったら…僕の体が震えた。


だけどそれでもいいと思う僕。


同時に――

自分だけを見て欲しいと思う"僕"がいて。


僕は僕で、決して櫂ではないけれど、

櫂と思ってもいいから、僕を選んで欲しい。


矛盾した心が僕の中で大きくなっていた。


僕はただ――


――紫堂櫂を愛してる!!


全身で愛して欲しいだけ。
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