シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
天高く聳える黒い物体は、塔のように内部に引き入れる造りにはなっていないようで、一周しても入口らしきものは見えなかった。
ただのオブジェか、入口が隠されているだけか。
「何だよ、これは…」
良きものでないことは確かだ。
「ああ、建物が跡形もなく。こんな不可思議な怪奇現象…カメラでもあれば!! それよりああ、くそっ。俺…失職か? しかも明日の給料日、絶望的か!!? カードの支払いどうするよ!!」
「APEXがなくなれば…ゆんゆん再放送も消えるね。嬉しいような哀しいような…複雑な気分…」
2人は思い思いに呟いていたけれど。
そして三沢さんは失笑しながら言ったんだ。
「こりゃあ、上岐物産も吃驚仰天だろうな。かなり金かけて建てた持ちビルらしいから」
「上岐…物産!!?」
僕の声は堅くなる。
「それは豊洲に本社がある、あの上岐物産!!?」
三沢さんは頷いた。
「そう。あの社長…黄幡会にかなり金を注ぎ込んでいるらしいから、此処での収益も寄付になるんだろうが」
そして続けて言ったんだ。
「まあ妻も子供も死んでしまえば、宗教にでも縋りたくなる気持ちは判るけどな」
何だって!!!?
「妻子が…死んでいる!!!?」
僕の声は裏返った。
「あ、ああ。
子供は10年前に。
妻は2ヶ月前の大災害で」
では――
「れ、玲くん…どういうこと!!!?」
僕達が会った"エディター"…
上岐妙を名乗った少女は一体誰なんだ?