シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
――養女でもとったのかと俺も戸籍や電子データを調べたがその形跡はない。だとすれば他人の子を我が子と偽って育てたのか、或いは…。
言いにくそうにしているクマ男に代わり、玲くんが言った。
――"蘇った"のか。ただし、頭部の回復という物理的な問題があるけどね。
上岐妙の記憶は、一縷とダブっているものがある。
それが"幽霊"によるものでなければ…。
――"エディター"は…10年前の上岐妙ではなく、10年前のイチルだったのか? それとも…第三の存在なのか?
"エディター"は、上岐妙かイチルか別物か。
ああまた…延々と答えが見えない円環を彷徨うことになるのか。
――10年前に死んだ本物の"妙"は、臀部に…幼少時に負ったケロイド状の火傷の痕があるらしいが、現在の"妙"にあるのかどうか確認は出来てはいない。それが判れば…とりあえず今の上岐妙が10年前の成長した姿なのか、判るだろう。
臀部…お尻じゃない。
どうしたら確かめられるというんだろう。
玲くんが深く考え込んでいる間に、クマ男は携帯電話を取りだして何かを話していて。
――おう、本当か!!! だったら音響室、使わせてくれ!!! 今から行く。
そう大きな声で言って電話を切っていた。
――俺の後輩が、赤坂のTBSにいるんだが…今人が出払っているらしいから、音響室使わせてくれるそうだ。折角だから、あの音取出して、それだけの音源を確保しよう。何やらお前さん達、物騒なものに巻き込まれているんだろうし、攻撃材料は多ければ多いほどいいだろう。
その厚意に甘えることで、あたし達は…ボンドカーに乗ってTBSに向かったんだ。
「何やら、随分とヘリの音が騒がしいな。何か世間を賑わす大事件でも起きたのか?」
クマ男が、窓をちらちら見ながらそう言った。
ああ、この煩い音…ヘリコプターだったのか。
もう少しで夕飯という家族団欒時に、傍迷惑な音だ。