シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
とりあえず…テレビ向けの"正装"ではないのは間違いないのに、妙に威風堂々としている姿を見れば、この服を気に入っており、此の場には相応しいものと考えているのだろう。
何て世間知らずのずれた男だ。
こんなの反感を買うばかりじゃないか。
蓮も何故こんな服を着せた!!?
しかし予想外に女ウケはいいようで、この女アナを含め、周囲から注がれる熱視線は凄まじい。
俺ならこんな派手な勘違い男は敬遠したい処だが…女にはそれも美貌を彩る1つの要素だと思えてしまえるらしい。
むしろ久遠が尋常ではない美貌の持ち主だから、"普通ではない"ものを求めているようにも思えた。
それは一種の、宗教の如く。
人間の意識とは、都合良くできているらしい。
そして隣に居る…俺と同じ顔をした男は。
元来、派手な服装ばかりを好んでいる。
つけている装飾品も、照明に反射して必要以上のぎらつきを見せているし、コートだって…襟元の黒いファーはいいとしても、なんだその肉食獣的なヒョウ柄は。
俺はいつも正装はスーツで。
誰が見ても恥ずかしくないものを着ていたつもりだが、この2人に比べれば…なんて地味で目立たなかったのか。
決して目立ちたい訳ではないけれど、おかしい感覚の持ち主2人に、やけに悔しく思うのは何故だろう?
久遠同様、久涅に向けられている熱い眼差しもある。
女というものの感覚は俺には理解出来ない。
芹霞だったら…どう反応するだろうか。
もしこの2人の格好を"格好良い"と表現したら、俺は…。
俺は…
"その"格好をした俺を想像して、げんなりした。
目の前では女アナが、媚びた上目遣いで興奮したようにぺらぺら自分のことを喋りまくっていて。
久遠も久涅も、喧(やかま)しすぎるこの女にまるで興味がないらしく、完全無視して傍に控える俺に無言の視線を寄越していた。
俺の女装を詰るより、自分達の格好を省みろ。
交差する3組の視線に加わったのは女アナの…俺に対する嫉妬の視線。
最早混沌だ。
どうして俺が、この女から憎しみ籠もった目を向けられねばならない?
そこで中継開始の合図。
そしてそんなやりとりをまるで感じさせない…プロらしい朗らかな笑顔で、中継が始まったんだ。