シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
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「皆さ~ん、ここにいるのが…KANANのオーナーの各務久遠さんと、スポンサーの紫堂久涅さんです。KANAN創設秘話なんて聞いてみますね~」


一見和やかにも見えるが――

まるで噛み合わない…若林アナと久遠と久涅の会話。


当然。


KANAN創設に尽力したのは俺で、久遠はただ眺めていただけ。

久涅など知るわけもなく。


当事者以外がインタビューされて答えられることなんかないはずで。


更にまずいことに久遠は、若林アナが気に入らないらしく、途中から不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。


元より芹霞や俺以外の存在に"嫌悪"による動的な攻撃を見せることのない久遠は、その存在自体…静的"無視"するを決め込んだらしい。

激昂する相手にもなっていないことは、瑠璃色の冷めた瞳の色でよく判る。


そんな不穏な空気を察したのだろう、アナは焦りながら積極的に久遠に意見を求めるが、久遠は口を結んだきり開く気配はなく。


アナの問いかけだけが、虚しく消えて行く。

公衆の面前で此処まで"無視"出来る久遠は、まるで協調性のない"大物"だ。



「ええと…それで各務さん…」


それでもしつこく意見を求めるアナに、


「その声――

キンキン高く響いて耳障りだ。

――黙れ」


剣呑な瑠璃色の瞳は、底冷えしそうな冷たさだけを放ち、まともに受けた若林アナは石のように硬直した。


観客に混じって顔を出していた蓮が、顔に手を覆い…溜息をついている。


不安的中、と言った処か。


それでも、この時ばかりは…久遠の気持ちも判らないでも無かった俺。


このアナウンサーの声…マイクを通すと、やけにキンキンと…頭に響くから。


それでもテレビ放映されていれば、さすがにそんなことは言わないけれど。


久遠の隣では久涅が大ウケして爆笑を始め、あることないこと…まるで真実のように滔々と語り始め、それが結果、フォローの形となり…何とか番組は進行していった。


そんなハラハラはまだ安穏とした光景の一幕で。


俺は感じていた。


この雑踏に混じるように、

何かの気配があることを。


先刻から…現われては消え、消えては現われる…軌跡を掴ませないそれは、間違いなく"瘴気"。


人が多すぎた。


大勢の気配に隠されているのか。


久遠は感じているのか。


これは久涅の策略か?


俺はメイドとして促されるまま、茶の支度をしてそれを出して…それは屈辱的なれど、同時に周辺を走査して警戒していた。

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