シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
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ふさふさと高級"草食動物"の毛を揺らしながら、優雅に久遠が歩く。


それを狙うように、後ろから下卑た"肉食獣"柄の久涅が歩く。


そしてそんな2人を追うのは…


『おい、暴れるなよ、落とすぞ旭』

『きゃははははは~』

『くっそ~、後で変われよ!!?』

『旭上だもの~。シレイカン命令~』

『う~。異議申し立てしたい!!』


そんな小さな声が内部から聞こえてくる――


"クラウン王子"。


着ぐるみの中、司狼が旭を肩車しているのだろう。

上半身と下半身の動きが不一致にぶれ、左右にカクカクして怪しい。


怪しすぎるのは動きだけではない。


……なんだ、この"ゲテモノ"は。



――その前に、報道陣に紹介する。


久遠は堅い顔をしながら、そう声を上げた。


――イメージキャラクターだ。


何故このタイミングでの紹介か、久涅が不審げな顔をした中、ほっとした顔の若林アナが上手く場を取り繕い、"それ"のプロフィールを語り始めて。


前もって作られている"それ"の経歴の詳細さに多少驚きながらも、カメラの影では他者を抑えつけるような力を持つ瑠璃色の瞳が蓮に向けられ、そして蓮は一礼すると、人垣からすっと消えた。


そして人混みを掻き分け、いや、人波が"それ"を恐れただけであろうけれど…まるでモーゼの如く海を二分させるかのように、悠々と出現したのが――リアルすぎて怖い、"ティアラ姫"パクリの着ぐるみ。


大きさは俺の胸の位置くらい。


寸胴、短足。

何処までも丸みがある体型(フォルム)。


頭には、スワロフスキー・クリスタルと…地味に自分の(或いは玲の)金緑石(アレクサンドライト)を埋め込んだ王冠(クラウン)を被り、真っ赤なサテンのマントを羽織っている。



――"クラウン王子"だ。


愛想の欠片もない冷ややかな声での紹介。

王者さながらの貫禄を見せつける"王子"に、さすがの久涅も言葉を無くしたようで。

俺そのものの顔で、俺の心情の如く…忌々しげに顔を歪ませる。




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