シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「がああああ!!!」
翠が怒りに飛び跳ねた。
「結局判らないじゃないか!!!
珍しく暗号じゃなかったのに、今度は"鬼雷"ってのと"狂犬"っていう、いかにも怪しい匂いプンプンの奴らを探さないといけないとは…」
「「………」」
私は煌と共に黙り込んだ。
知らなかったのか?
今更?
「絶対、"悪役(ヒール)"ぶっている不審者だぞ!!? 変態かもな。きっと頭に女のパンツ被って、はあはあ言う…」
「お前、馬鹿にしてんのか!!!?」
「何でワンコが怒るんだよ!!!」
「何で俺が"犬"って呼ばれてるよ!!?」
「は!!? 見るからにワンコだからだろう!!?」
「俺の外見の何処がワンコよ!!?」
煌は…"狂犬"の異名から、ワンコ呼ばわりされているとでも思っていたのか?
ああ…犬と猿がぎゃんぎゃんキーキー煩い。
朱貴を見れば――
秀麗な顔には珍しく焦慮感が浮かんでいて。
濃灰色の瞳は苛立たしげに細められていた。
それは翠の様子に対してではない。
「朱貴。七瀬紫茉の気は追えないんだな」
己の無力さを悔やむような顔つきだったから。
朱貴は、肯定するように顔を背けた。
朱貴のことだ。
1人で七瀬紫茉を助け出そうと、彼女の"気"を走査し、場所を絞りこもうとしていたのだろう。
朱貴ほどの男でも七瀬紫茉の"気"を追えないのだとしたら、彼女が特殊環境にいるのは間違いない。
その場所を聖が知り、私達を指定したのは…何故か。
しかしこれはチャンスだと私は思ったのだ。
「朱貴。協力する代わりに――
こちらも協力して欲しい」
そうこれは取引。
「ギブアンドテイクだ」
朱貴にとって大切な七瀬紫茉の救出を手伝う代わりに、
私達にとって大切な玲様を助けて貰いたい。