シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「また…けったいな方とお知り合いで。裏世界の方ですか?」
「裏世界…と言えばそうだよな。お知り合いというか、俺が一方的に知っているだけだけれど…。兎に角格好よくって、ガンアクション、カーアクション…もうハラハラドキドキの展開で、何にせよアクションバリバリでさ。映画が終わるのが早いこと早いこと」
「……映画…」
「乗っている車が凄いんだ。MI6の秘密兵器開発主任Qが開発した、秘密兵器満載で。防弾硝子、機関銃や小型ミサイル、せり出し式の装甲板とか装備してたり、助手席のシートが飛び出たり、煙幕発射や潜水艦変身や…」
「ワンコ、凄ぇッッ!!!」
それまで――
桜と一緒に後部座席に乗りたがっていたのに、
――翠くんは助手席です。
朱貴にそう言われて…
ふて腐れて"きび団子"を囓っていた態度を一転。
「朱貴、このポルシェは、ワンコの言う"ボンドカー"!!?」
多分今の俺と一緒な…キラキラとした眼差しで。
小猿も007を知らねえらしい。
「翠くん…。そんな車は現実にはあり得ません。悪いですが、これはポルシェのパナメーラGTS。走るのに特化したスポーツカーで、そんな変な装備は一切ない、極まともなものです」
「「ええ!!?」」
俺と小猿は落胆した声を出した。
「走りに特化したものなら、
"加速モード"とかは?
限界超えて超速度で走るとか…」
俺が聞くと、朱貴は首を横に振る。
「こんな狭苦しい島国のごみごみとした東京で、使う機会もないのに、大金はたいて自分の車にそんなマニアックな改造施すのは、気狂い…までいかなくても胡散臭い奴くらいでしょう」
「ええ!!? 例えば音声ナビに、声で応えれば"モード"が変わるとか…」
「変わりません!!!」
思い切り断言された。
「君は、映画の見過ぎです!!!」
期待していた心が、ぽっきり折れた。
だけど望みは捨てちゃいねえ。
胡散臭いあの男の青い車なら
"加速モード"くらいついてるかも。
"音声ナビ"くらいは…。
よし、今度あの車を点検だ。
玲だけに独り占めさせて溜まるか!!
俺も早く18歳になって運転してえ。
「お前…免許とるつもりなのか?」
それまで黙って窓の外を見ていた桜が、驚いた顔を向けた。