シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
久遠が口を開いた。



「帰れ」


それはまるで術を発動するが如く。

凛として重い口調。



「今なら帰れる。

せりを連れて外界に帰れ」


何処までも冷めた瞳。


櫂に向けるような、嫌悪の表情すら向けない。


僕は久遠の"感情"を揺り動かす対象にはならない。


僕は、芹霞を抱いているというのに。



「オレは…お前の手を借りねばならない程、落ちぶれていない」


久遠の瞳は――


「だから、"あいつ"や由香を連れて帰れ。

せりに…此処の惨状を見せるな」



芹霞の名前が出る時だけ、紅紫色に戻る。


素直な…久遠の瞳の色に、

僕の心は嫉妬に焼き付いて。



芹霞の初恋。

芹霞が"せり"と呼ばせる相手。


これだけ妖麗な顔立ちで、美貌は僕と比較にならない程で。

強くて賢しい…各務久遠。


その存在感は、その威圧感は。

櫂に通じるものがある。


唯一櫂だけが、久遠の苛立ちとなりえる恋敵で。

そして櫂もまた、唯一本音をぶつけられる相手で。


2人の間には、僕の存在なんて脅威ではなく。


悔しい。

すごい悔しいよ。


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