シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
男は動かない。
青白い仮面からは表情を知ることは出来ない。
ただ、視線だけはこちらに向いている。
「何が…あった…?
目を…やられたの…は…嘘じゃない…はず」
それは――
あの時の氷皇の動揺が物語っている。
片目が抉られた様は、応急処置をした玲もよく見ている。
その後、遠坂が氷皇に付き添い、
闇領域の隠れ家とはいえ…
然るべき場所に移して…療養させた。
芹霞が見た黄色い蝶。
確かに榊は目を抉られたはずで。
確かに被害者のはずで。
確かに蝶にやられたせいで、
片方が義眼になったはずなんだ。
それがどうして…蝶を操る側の存在に?
無反応の男を見ていれば、別人なのだろうかという疑念も湧いてくるけれど。
依然感じる視線の違和感。
男の"ぶれ"た違和感は、邪気だけではない。
有機質と無機質。
本物と偽物。
相反する2つが混ざった…矛盾めいた違和感を信じるとすれば、それこそが俺のぶれない答えであり。
遠坂榊であると断定できるんだ。
かつて"約束の地(カナン)"で白皇の元についていた彼を、久遠は何処まで深く知っていたかは判らないけれど、決して見知らぬ仲ではないはずで。
それでも久遠を弾けと視線で伝えた。
正体を…久遠には知られたくなかったのか。
もしかして…俺にも知られたくなかったのか?
それとも、俺だから知らせる気になったのか?
男は何も答えない。
何の反応も示さない。
戦意があるわけではないのか?
しかし…緊張感を漂わせるこの一定距離。
それは以前のような和やかさはなく。
敵か?
味方か?
判断出来ないのが、非常に焦れったい。
要求通りに、久遠は遠ざけたというのに。