俺様専務とあたしの関係
「何だよ…、そんなに改まって」
かすかに動揺する章人に、あたしは心のどこかで自惚れてしまう。
あたしの言葉も、少しは章人の心を動かせるのかな…。
そうだったら、いいな…。
「あたし、やっぱりここを出て行く事に決めました」
「出ていく?」
章人の顔から、一瞬にして笑顔が消えた。
「はい。今朝、専務はあたしに聞いたでしょ?来年も側にいてくれるかって」
「あ、ああ…」
あの時、答えるつもりだった言葉とは、まるで反対の事を言おうとしている。
それは、傷つきたくないから。
あたしは、逃げる為にこう言うと決めたのだった。
「秘書としては、側にいるかもしれません。でも、それ以外の関係で一緒にいる事はないです」
「美月…、それは本気で言っているのか?」
「本気です。だからさっきも、エレベーターでキスを拒んだんです。それなのに、結局こうなっちゃうんだもん…」
ううん。
本当は嬉しかった。
キスはたくさんしたいし、抱かれた体にはまだ余韻が残る。
だけどあたしは、想いが報われない経験には免疫が無さ過ぎるから…。
だから、もっと深く恋に落ちる前に、あたしは逃げる事を決めた。
自分の気持ちから…。
「それじゃ、納得出来ないよオレは」
章人の口調は、いつになく冷静で、ゆっくりとあたしにそう言ったのだった。