俺様専務とあたしの関係


信じられない…。


あまりにも衝撃的過ぎて、あたしは呆然としてしまった。


「それでも別れるつもりはなかったんだ。だけど、蒼衣から別れを強く望まれて…」


「蒼衣さんから?」


「ああ。オレたち、正式な婚約はしていなかったから、最後はこっちが折れる形で別れたけど…」


すると、遠くを見つめていた章人は、手で口を覆った。


そして、その目には涙が浮かんでいる。


「分からないままなんだ。何で、蒼衣が浮気をしたのか…。オレが想っていたほど、あいつはオレを好きじゃなかったのか…?」


瞬きをした瞬間、涙が一筋流れ落ちた。


「専務…」


その時の章人は、一体どれほどの絶望感だったんだろう。


好きな人に裏切られた時の気持ちを考えると、あたしまで涙が出てくる。


章人は、嗚咽を堪える様にジッと前を向いていたけれど、その目からは涙が溢れていた。


「忘れられないんだ。もう、あいつは戻って来ない。それは分かっているのに…。どうやったら忘れられるんだ?」


初めて見る章人の姿に、あたしは無意識のうちに後ろから抱きしめていた。


「章人…」


広い背中は震えている。


いつもは、あんなに強気なのに…。


今でも、どれほど蒼衣さんを好きなのか、いやってほど分かった気がした。




< 105 / 194 >

この作品をシェア

pagetop