俺様専務とあたしの関係
お互いのトラウマ
「…というスケジュールです。章人専務、よろしいですか?」
「ああ、いいよ。ありがとう」
いつもと変わらない朝、あたしは“秘書”として専務室でスケジュール確認をする。
あれから朝まで、体を重ね合っていたあたしたち。
だけど、心だけは重なっていなかったと思う。
それが切ないけれど、そう思ってはいけないんだ。
「美月、ゆうべは情けない姿を見せてごめん」
「いいえ。それは気にされないでください」
照れ笑いをする章人に、あたしも笑顔を返す。
男の人が泣く姿なんて初めて見たから正直動揺したけれど、そのせいで恋をする気持ちは大きくなった気がする。
それに、寂しさを埋めたくて、抱き合うのは一緒だから。
章人だけを責められない。
「今朝は、アメリカ支社の方も来られるんですよね?」
気を取り直す様に、あたしは手帳に目をやった。
「そうなんだ。大事な戦略会議でさ。時間に遅れるといけないから、もう行こう」
そう言って、章人はペンを胸ポケットに刺すと席を立つ。
こういう身のこなしは惚れ惚れする程で、あたしも負けじと専務室のドアを開けた。
「美月、ドアくらい自分で開けられるって言ったろ?」
「ドアくらい開けさせてください」
そう反論すると、章人は小さくため息をついた。
「美月らしいな、そういう言い方は。だんだん慣れてきたよ」
困った様な顔で微笑んだ章人の横を歩き、会議室のあるフロアへエレベーターで向かったのだった。