俺様専務とあたしの関係
慣れた感じで、章人も英語で何かを話している。
その流暢な英語力にも驚いたけれど、このフロアでハイヒールが響いた事にも驚いた。
専務室のフロアは絨毯が敷かれているから、靴の音がまったく響かない。
それが、秘書就任初日はショックだったのに、すっかりハイヒールを鳴らして歩く事を忘れていた。
それを思い出したからだった。
「美月、どうしたの?社長たち部屋に入ったから、お茶を出しに行こうよ」
絢に声をかけられ、ハッと我に返る。
「う、うん。ごめんね、急ごう」
あらかじめ給湯室に用意していたお茶を煎れ、あたしたちは会議室へ向かった。
ハイヒールを鳴らす事。
それは、ほんの少し前までのあたしのこだわりだったのに。
自分に自信を持てれる手段だったから。
いつの間に、忘れていたんだろう。
章人からプレゼントをされたローヒールパンプスが、あたしの足に何より馴染んでいる事に気付く。
会議室では丸テーブルで、社長を始め全員が英語で会話をしていた。
そんな中を、あたしと絢は、ほとんど存在を消してお茶を運ぶ。
こういう時は、さすがの章人もこちらには目も向けない。
そんな彼を、横目で見ながら思ってしまった。
あたし、いつの間にかハイヒール無しでも、前を向けれる様になっていたんだ。
そうなった理由は…。
心の中で、あえてその答えを出さないまま、あたしは会議室を出たのだった。